移植後IgA腎症の長期経過:9例の臨床病理学的検討

虎の門病院 病理部
* 原  重雄、松下  央
同 上腎センター
冨川 伸二
鶴見西口病院
葛原 敬八郎
東京慈恵会医科大学柏病院 病理部
山口  裕

【目的】  移植後IgA腎症についてこれまで多くの研究が行われてきたが、長期間にわたって観察した研究はなく長期経過例の知見は乏しい。今回、長期経過の移植後IgA腎症を対象として、その特徴を検討するため臨床病理学的解析を行った。
【方法】  1982年3月から2002年9月にかけて、虎の門病院腎センターで腎移植を施行された274例中、移植後のprotocol biopsyでIgA腎症と診断された症例は45例あった。このうち移植後IgA腎症の診断後5年以上にわたる経過観察が可能であった9例を対象として、腎機能、尿所見、組織学的所見の経時的変化ならびに使用した免疫抑制剤の種類について検討した。
【結果】  男女比は3:6、移植時平均年齢は34.2歳であった。腎機能は7例で改善した。尿潜血は7例で陽性であり、うち5例に改善が認められた。糸球体は7例では軽度のmesangial stalk thickeningであった。他の2例はメサンギウム増殖性糸球体腎炎像であり、うち腎機能の悪化した1例では半月体形成や分節状硬化が認められた。IgA沈着の改善は6例、C3沈着の改善は4例で認められ、これらは腎機能、尿潜血の改善した症例とほぼ一致していた。免疫抑制剤の内容はステロイド、シクロスポリン、代謝拮抗剤(アザチオプリンまたはミゾリビン)が5例、ステロイドと代謝拮抗剤が3例であった。
【考察】  今回検討した移植後IgA腎症の半数以上の症例で腎機能、尿潜血の改善やIgA沈着の軽減が認められた。原発性のIgA腎症でも経過中に自然軽快する症例があることが指摘されているが、今回の結果はこれよりも高い比率である。しかし9症例のみの検討であり、さらに多くの再発例を対象とした検討が必要である。移植後IgA腎症の改善は免疫抑制剤の長期使用による効果と考えられるが、IgA沈着改善例と悪化例とでは、免疫抑制剤の内容に差はなかった。
【結論】  移植後IgA腎症は長期経過の後に改善する症例があることが示されたが、IgA沈着が改善する例としない例を分ける要因については今後症例の蓄積に基づいた解析が必要と考えられる。

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