免疫抑制薬が及ぼす移植腎機能への影響

名古屋第二赤十字病院 腎臓病総合医療センター
* 武田 朝美、打田 和治
名古屋市立大学 人工透析部
両角 國男
ハーバード大学
N.L Tilney

 慢性移植腎機能障害(chronic allograft nephropathy:CAN)に対する免疫抑制薬の影響を、特にシクロスポリン使用腎移植の長期症例で検討する。1982年以降当院で施行されたシクロスポリン使用腎移植例中、episode biopsyでシクロスポリン慢性血管障害(ciclosporin associated arteriolopathy:CAA)を組織診断した111例を対象とし二つの臨床病理学的解析をした。

【解析1】
CAA症例の長期経過の検討を行った。典型的なCAAを呈し生検後もシクロスポリンを使用し経過を追跡できたのは74例で、移植腎機能廃絶群(L群)44例、生着中群(F群)30例である。両群ともに移植後平均65ヶ月の生検にてCAA診断され、ドナー、レシピエントの年齢に差はなかったが、生検時のsCre値、蛋白尿は各々L群:2.7mg/dl、2.3g/day、F群:1.9mg/dl、1.3g/dayとL群で高値だった。また、L群をCAA診断から機能廃絶までの期間で4群に分けた(I群:1年以内に廃絶、II群:1〜3年以内、III群:3〜5年以内、IV群:5年以降で廃絶)。生検時のsCre値はI群で有意に高値でII〜IV群では差はなく、早期廃絶群ほど生検時に高度の蛋白尿を呈していた。F群はCAA診断後平均54ヶ月フォローされ、現在の移植腎機能は平均でsCre=2.15mg/dl、蛋白尿1.0g/dayである。組織学的な合併病変についてみると、慢性拒絶反応やFGS病変を合併し蛋白尿の多いCAA症例が移植腎機能悪化した。
【解析2】
シクロスポリン使用移植例に増加しているFGS病変とCAAの関連を検討した。FGS病変は高度蛋白尿を伴いやすくCANの進展因子として重要である。FGS病変を診断した55例中31例(56.4%)が高度なCAAを伴い、シクロスポリン糸球体症(ciclosporin glomerulopathy:CAG)としてのFGS病変と考えられた。しかし、FGS病変を示した多くの例に、狭義の慢性拒絶反応所見や糸球体腎炎などFGS病変を伴う異なった病態を確認できた。FGSの55例中33例が機能廃絶したうちの19/33(57.5%)が、生着中22例では12/22(54.5%)がCAG例であった。機能廃絶例では、CAGと慢性拒絶反応や糸球体腎炎の合併例が有意に多かった。一方、CAG単独によると思われたFGS例では、シクロスポリン投与量を減じることでCAGの進展と移植腎機能低下を抑えることができた。CAA自体が最大の移植腎機能予後不良因子となることは少なく、高度蛋白尿を引き起こす合併病変に注意が必要である。

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