ABO血液型不適合移植の摘出脾にみられた急性炎症所見の意義について

北海道大学 病態解析学
* 大塚 紀幸、吉木  敬
北海道大学医学部附属病院 病理部
清水 道生、伊藤 智雄
幌南病院 病理検査科
深澤雄一郎

 一般に、剖検症例で脾臓に著明な好中球浸潤が認められる場合には臨床的に敗血症等を伴っていることが多く、組織学的にはacute splenitisと診断される。一方、外科的に摘出された脾臓においてはある程度の好中球浸潤が認められ、特に被膜直下に目立ち手術操作に起因するものと推測される。今回我々はABO血液型不適合生体移植症例(腎4例、肝1例)において、脾臓に多数の好中球浸潤を認め、いずれの症例も、術前にABO抗原に対する抗体除去を目的とした血漿交換 (plasma exchange:以下PEと略す)が行われていた。コントロールとしてPE(-)の剖検症例(敗血症、重症感染症例を除く)と外科的切除症例、各5例の脾臓を用いて検討した。また、PEによる抗体価減少の効果と拒絶反応の有無についても検討を加えた。その結果、ABO血液型不適合移植症例の脾臓において好中球浸潤の程度は通常の外科病理標本と比較して高度であった。また、好中球浸潤の程度とその後に発生した拒絶反応との関連はなかった。脾臓の好中球浸潤とPEの関係については報告がないが、要因としてはABO血液型不適合移植前に施行される異型血漿によるPEが最も考えられる。病理組織学的には急性脾炎とせざるを得ない像で、ABO血液型不適合移植における脾臓摘出の必要性について何らかの示唆を与える所見と考えられるが、今後さらに症例の集積による検討が必要と思われる。

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