移植腎における小動脈中膜平滑筋細胞の萎縮の臨床病理学的検討
Clinicopathological investigation about smooth muscle cells atrophy in small artery of kidney allografts

東邦大学医学部 腎臓学講座
* 高上 紀之、小口 英世、村松 真樹、板橋 淑裕、河村 毅、濱崎 祐子、酒井 謙
済生会横浜市東部病院 腎臓内科
高上 紀之
東邦大学医学部 病理学講座
三上 哲夫
山口病理組織研究所
山口 裕

【背景と目的】移植腎において、小動脈の中膜平滑筋細胞(smooth muscle cells; SMCs)の萎縮が観察されることがある。糖尿病性腎症と高血圧性腎硬化症の病理診断の手引きではSMCsの萎縮は重度の動脈硬化を示唆する所見とされている(日腎誌2015;57:649-725)。我々は長期生検例においてより高頻度にSMCsの萎縮がみられると考えているがどのような因子が萎縮性変化と関連しているかは不明である。本研究では移植腎における小動脈中膜のSMCsの萎縮に関連する因子を検討することを目的とした。
【方法】東邦大学医療センター大森病院において2016年1月から2019年12月に施行された移植腎生検のうち移植から10年以上経過しているものを対象とした。生検時に20歳未満の症例は除外した。小動脈において最もSMCsの萎縮がみられる場所を可能な限り縦断面で計測し、既報(Ninomiya, et al. J Am Soc Nephrol.2007;18:2134-2142)を参考に近位小動脈(外径≧150μm)および遠位小動脈(外径<150μm)に分けて評価した。小動脈において外径、中膜、内膜、内腔の長さを測定し、SMCsの萎縮の程度は中膜/外径比で評価した。
【結果】50検体が対象となった。移植時のレシピエントおよびドナー年齢の中央値はそれぞれ31歳(range 3-61)、55歳(24-70)であった。移植後期間の中央値は13年(10-29)であり、移植腎年齢(ドナー年齢と移植後期間の合計)は67.5歳(40-80)であった。生検時のeGFR中央値は34.5mL/min/1.73m2(7.1-68.9)、蛋白尿は0.6 g/gCr(0.1-13.5)であった。収縮期血圧、拡張期血圧中央値はそれぞれ119 mmHg(86-176)、76 mmHg(42-95)であり86%が降圧薬を使用していた。中膜/外径比の中央値は近位小動脈において0.20(0.09-0.39)、遠位小動脈において0.26(0.08-0.56)であった。相関分析において移植腎年齢と中膜/外径比は有意な逆相関がみられた(近位小動脈 順位相関係数 −0.430, p=0.0199、遠位小動脈 −0.370, p=0.0096)。またドナー年齢と中膜/外径比も有意な逆相関を示した(近位小動脈 −0.483, p=0.0080、遠位小動脈 −0.352, p=0.0141)。一方で移植後期間と中膜/外径比は有意な相関関係がみられなかった。また中膜/外径比は近位・遠位小動脈において生検時eGFR、蛋白尿、収縮期血圧、拡張期血圧と有意な相関関係を示さなかった。
【結語】移植腎小動脈の中膜SMCsの萎縮に腎臓年齢およびドナー年齢が関係する可能性が示唆された。

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