腎移植後にエピソード生検で判明した多発性骨髄腫の一例
A case of multiple myeloma in a kidney transplant recipient diagnosed by episode graft biopsy

市立札幌病院 腎臓移植外科
* 清藤 豊士、佐々木 元、田邉 起
はらだ腎泌尿器クリニック
原田 浩
市立札幌病院 血液内科
山本 聡
市立札幌病院 病理診断科
牧田 啓史、辻 隆裕

 患者は77歳男性。いわゆる慢性糸球体腎炎による末期腎不全にて血液透析導入20年後に心停止下献腎移植施行。導入免疫抑制は、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、メチルプレドニゾロン、バシリキシマブで導入され、前者2剤で維持され血清クレアチニン(Cr)は0.7 - 0.8 mg/dL、尿中タンパク・クレアチニン比(Up/Ucre)0.2 g/g・Cr程度で安定して経過していた。移植後5年腎生検でメサンギウム領域にIgAおよびIgMの沈着、移植後10年腎生検で中等度のCNI arteriopathyが疑われる所見のみを認めていた。腎移植後18年10ヶ月にCrの上昇(1.29mg/dL)およびUp/Ucreの増加(1.39 g/g・Cr)がみられ移植腎生検を施行した。なお腎生検当日のCr(4.87 mg/dL)、Up/Ucre(1.94 g/g・Cr)はさらに上昇し、拒絶反応が疑われた。抗HLA抗体スクリーニングは陰性であった。病理所見ではIFTAは15%であり、小葉間動脈の軽度内弾性線維多層化および中等度細動脈硝子化を認めたものの移植後10年目と比して大きな進行は確認されなかった。一方、一部の尿細管にPAS染色で染色されず、HE染色で好酸性の強い円柱が認められ、尿細管上皮の扁平化や脱落を伴っていた。蛍光所見では、円柱にIgAの沈着を認め、パラフィン切片で円柱にλ陽性、κ陰性の軽鎖偏倚を認め、軽鎖円柱腎症が疑われた。原疾患として多発性骨髄腫が疑われ、骨髄穿刺を施行した。骨髄有核細胞のうち59%がCD138陽性形質細胞であり、多発性骨髄腫の診断が確定した。移植腎は骨髄腫腎と診断された。診断時、補正Caは11 mg/dLと軽度の上昇、Hbは14→10 g/dLと低下を認めていたが、骨折などその他所見は認めなかった。現在、ダラツムマブ、ボルテゾミブ、メルファラン、ステロイドのDMPB療法を2コース施行し、Cr1.57 mg/dL、Up/Ucre0.13 g/g・Crまで低下を認めている。

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