タクロリムス、エベロリムス、バルプロ酸内服中に腎病理所見でThrombotic microangiopathyを呈した生体腎移植患者
Living renal transplant recipient with thrombotic microangiopathy on renal pathology while receiving tacrolimus, everolimus, or valproic acid

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 腎臓内科
* 小林 アズサ、新城 響、井口 大旗、岡田 絵里子
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 移植外科・移植内科
二村 健太、岡田 学、平光 高久、後藤 憲彦、鳴海 俊治、渡井 至彦
増子記念病院 腎臓内科
武田 朝美

 症例は41歳女性、33歳時に尿潜血3+、尿蛋白5.4 g/日、Cre1.26 mg/dlを指摘され腎生検を実施した。非IgA型増殖性糸球体腎炎の診断で4年間ステロイド療法を行い、尿蛋白0.16 g/g・Creと改善した。その後保存的治療が行われたが、進行性に腎機能は低下し、37歳時(X年1月)に父親をドナーとしたABO適合生体腎移植術が施行された。免疫抑制は、プレドニゾロン、タクロリムス、エベロリムス、バシリキシマブで行われ、移植直後から腎機能は良好で尿蛋白も陰性を維持していた。移植1時間後、3週後、1年後のプロトコル生検では、ドナー持ち込みのIgA沈着症がみられたが、IgA腎症を示唆する糸球体病変はなく、拒絶反応やカルシニューリン阻害薬毒性所見も認めなかった。経過中、免疫抑制薬の血中濃度は至適濃度に保たれていた。
 X年9月片頭痛のため神経内科を受診し、リザトリプタン、ロキソプロフェンの頓用内服を行なったが、頭痛症状は持続しX+2年6月からバルプロ酸400 mg/日の内服が追加された。その後も片頭痛のコントロールは困難であったため、X+3年1月からガルカネズマブ(抗CGRPモノクローナル抗体)の投与も追加となり、バルプロ酸はX+3年9月に600 mg、12月に800 mgと漸増された。
 X+2年以降、腎機能はCre1.2 mg/dl前後、eGFR40台で安定していたが、X+3年7月頃からCre1.4 mg/dlと腎機能は悪化傾向となった。尿蛋白は陰性で抗HLA抗体も陰性であった。腎移植後4年1ヶ月のX+4年2月に移植腎生検を実施した。拒絶反応の所見はみられなかったが、輸入細動脈に血管腔を閉塞する血栓性病変を認め糸球体は虚血性変化を呈していた。また細動脈にはフィブリン析出や泡沫細胞を伴う高度な血栓性病変がみられ、中膜細胞の壊死性変化も伴っていた。
 タクロリムス、エベロリムスの血中濃度は良好にコントロールされていたが、腎移植4年後の腎病理所見でThrombotic microangiopathy(TMA)を呈していた。免疫抑制薬に加えて片頭痛治療のためバルプロ酸も内服しており、これらTMAとの関連が知られる3種類の薬剤を同時に内服していたことが高度なTMA病変の形成に寄与したと考えられた。今後はバルプロ酸の減量や免疫抑制薬の変更を検討している。

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