|
【症例】62歳男性
【現病歴】35歳時に糖尿病を発症、X-1年1月(61歳時)にCre 2.39mg/dlと悪化、浮腫のコントロールに難渋していた。X-1年7月Cre5.05mg/dlに悪化、多量の胸水もあり透析導入。X年5月妻をドナーとする血液型適合の生体腎移植を施行した。
【経過】手術は合併症なく終了、術後経過は問題なくPOD7にCre 1.18mg/dl, eGFR 49.5, 尿蛋白1+で退院となった。術後3週間よりCre2-3mg/dlに急激に増悪、2-3g/gCreの尿蛋白も出現した。POD33に1回目のエピソード腎生検を施行、拒絶所見はなく、糸球体病変に乏しいが(IF陰性)巣状糸球体硬化症の初期病変の可能性は否定できないと考え、リツキシマブの投与、血漿交換を複数回施行した。しかしCre4mg/dl、尿蛋白4-5g/gCreとさらなる腎機能増悪を認めた。ネフローゼ症候群のスクリーニング検査にて、Bence Jones蛋白定性検査陽性、κ/λ比の上昇(141)、血中M蛋白陽性を認めた。POD57に2回目の腎生検を施行、萎縮した尿細管および中等度の尿細管炎、尿細管内にPAS陽性の円柱を多数認め、IFでは近位尿細管上皮と円柱にκ陽性であった。これらの結果より骨髄腫腎が疑われ、骨髄生検ではCD138陽性細胞が造血細胞の20-30%を占めており、多発性骨髄腫と診断された。現在血液内科にて化学療法を施行中、腎機能は改善傾向となっている。
【考察】本症例は移植前に骨髄腫の診断はついておらず、再発とは確定できないものの、移植前の急激な腎機能悪化の経過は糖尿病性腎症としても非典型的であり、骨髄腫腎であった可能性は否定できない。骨髄腫腎に対する腎移植の是非については免疫抑制による腫瘍増殖の可能性からcontroversialであり、過去の報告も少ない。移植直後の状況では、腎機能や尿蛋白の変動、術後の影響による貧血もあり、臨床的に骨髄腫腎を疑うことが難しい場合もあるが、ネフローゼレベルの尿蛋白増加時には鑑別に挙げ、スクリーニング検査および積極的な腎生検が重要である。 |