生体腎移植直後の虚血再灌流傷害の臨床病理学的検討
Clinicopathological study of ischemia-reperfusion injury immediately after living kidney transplantation

昭和大学 解剖学講座顕微解剖学部門
* 河西 恵州、康徳 東、本田 一穂
昭和大学藤が丘病院内科系診療センター 内科(腎臓)
河西 恵州、小岩 文彦
医療社団法人おおぞら会つばさクリニック
川田 尚人
昭和大学 電子顕微鏡室
高木 孝士、
昭和大学病院 腎移植センター
加藤 容二郎、吉武 理

【背景】腎移植直後の虚血再灌流傷害(Ischemia-reperfusion injury: IRI)はDelayed graft functionの要因の一つである。IRIは虚血による組織傷害と再灌流により誘導された免疫応答が複合した炎症である。IRIにおける炎症反応のメカニズムとして傷害尿細管上皮や遊走する炎症細胞からのサイトカインやケモカイン産生が想定されているが、詳細は分かっていない。
【目的】腎移植直後のIRIの臨床的背景と病理学的特徴を検討し、IRIの臨床的意義や発症機序を明らかにする。
【方法】2015年1月〜2022年3月に昭和大学病院で腎移植を施行された患者の内、生体間移植かつ移植0時間(0h)、移植1時間(1h)のプロトコル生検を施行され、拒絶反応を認めない51例を抽出した。0hと1hの生検組織をPAS染色とPAM染色を中心に光学顕微鏡で観察し、尿細管上皮傷害を病理学的に半定量的に評価した。IRIの診断は尿細管上皮傷害の程度が0hよりも1hで増悪したものとした。
【結果】51症例中32例でIRIを認めた。その程度はGrade 1:20例(39.2%)、Grade 2:9例(17.6%)、Grade 3:3例(5.9%)であった。IRIによる傷害は髄放線領域の近位尿細管上皮に好発し、空胞状変性の形をとっていた。臨床的因子の検討では、IRI(+)群はIRI(-)群に比較してCold ischemia time(CIT)が有意に長かった(中央値303min, IQR:263.3-362.3 vs. 142 min IQR: 104-273, P<0.01)。Donorの年齢、BMI、高血圧の既往、糖尿病の既往、ならびに生検組織での動脈硬化の程度はIRIの発症や重症度に相関は認めなかった。術後1週間の血清Cre値は、IRI Grade3の症例でIRI(-)症例に比較して高い傾向がみられたが有意差はなかった(中央値3.23 mg/dL IQR: 2.05-10.91 vs.1.58 mg/dL IQR: 1.36-2.12, P=0.098)。移植後1ヶ月、1年の血清Cre値は両者に差はなく、またIRIの発症とグラフト喪失に相関はなかった。
【結語】IRIの尿細管上皮傷害は腎循環末梢領域の髄放線領域の近位尿細管で強かった。IRIは臨床的に手術時のCITの長い症例に多く、生体腎移植におけるドナーとレシピエントの手術配置が縦列から並列へ変更された背景が関与していると推察された。IRIは移植後1週目の血清Cre値に影響する可能性が示唆されたが、その後のグラフト生存に有意な影響は認められなかった。

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