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【症例】46歳女性。IgA腎症を原疾患とする末期腎不全に対して28歳時に父親をドナーとする生体腎移植を施行された。移植腎機能は安定して経過しており、Cre:0.9-1.0mg/dl程度であった。免疫抑制剤はプレドニゾロン、タクロリムス、ブレディニンを内服しており、怠薬は無くアドヒアランスにも問題がなかった。数日前からの尿量減少、発熱、咽頭痛を主訴に予約外受診後呼吸器感染症と診断され入院となった。入院後Cre:4.9mg/dlまで上昇し、腎臓超音波検査で血流の消失を認めたため急性拒絶を疑い移植腎生検を施行した。生検結果では半数以上の糸球体の係蹄内に炎症細胞増多を認めた。また係蹄内に血栓形成を示す糸球体も散見された。間質には軽度の炎症細胞浸潤を認めたが、有意な尿細管炎は見られなかった。さらに好中球を含む高度な傍尿細管毛細血管炎が存在し、間質出血も認めた。小葉間動脈の一部は内膜下に炎症細胞が浸潤した動脈内膜炎を呈していた。免疫染色では傍尿細管毛細血管にC4dが陽性であった。以上の結果より急性抗体関連拒絶(Banff Score: i1, t0, g2, v1, ptc3, ci0, ct0, cg0, cv0, mm0, ah2, aah1, ti0, i-IFTA0)と診断した。腎機能がさらに悪化し一時的な血液透析が必要であったが、ステロイドパルス、IVIGを行い、ブレディニンをセルセプトへの変更も行った。徐々に腎機能は改善しCre1.44mg/dlの段階で退院となった。治療10ヶ月後にフォローアップの腎生検を施行したが、糸球体ならびに傍尿細管毛細血管に軽度の炎症像は否定できなかったものの拒絶は沈静化しているとして矛盾ない所見であった。抗体関連拒絶の原因究明のため抗HLA抗体のスクリーニング検査を行ったが拒絶発症前、発症時いずれも陰性であった。しかしながら抗MICA抗体が拒絶発症前には陽性(Ratio: 3,07, Cut off: 1.5) であったにも関わらず拒絶発症時には陰性化していることが判明した。抗MICA抗体が拒絶時には組織に吸着されたため陰性化したのであり、抗体関連拒絶の主因であった可能性があると思われた。
【結語】抗MICA抗体はnon-HLA抗体として抗体関連拒絶に関与すると報告されている。しかし移植後長期安定経過
中に一時無尿に至る急激な急性抗体関連拒絶が抗MICA抗体を原因として生じた本症例は希少と思われ報告する。 |