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【目的】小児腎移植例において膀胱尿管逆流(VUR)が組織所見に与える影響は十分に明らかにされていない。間質にTHP沈着を伴いIF/TAがみられる小児腎移植10症例の腎病理像を解析した報告では、間質の線維化や単核球浸潤が主病変であり、8例に排尿時膀胱尿道造影(VCUG)でVURが認められている(Akioka et al. Clin transplantation2009; 23 Suppl20:2-5)。今回、臨床因子から組織所見を検討するため、VCUGで評価されたVURと1年目定期生検における組織傷害との関連を明らかにすることを目的とした。
【方法】2009年から2019年に当院で行われた移植時年齢16才未満の小児生体腎移植138例のうち、移植後1年目までにVCUGでVUR有無の評価がなされ、かつ移植後1年目定期腎生検が施行されている87例を対象とした。VURの有無で、臨床病理学的項目の比較検討を行い、さらに高度VUR(grade V, W)・軽度VUR(gradeT, U)・VURなし、の3群にわけて比較検討を行った。組織学的スコアはバンフ分類を用いた。データはn(%)もしくは平均値 ± 標準偏差で記載した。
【結果】VURは87例中18例(20.7%)に認められた。VUR18例のgrade内訳は、T: 9例, U: 3例, V: 3例, W: 3例であった。VCUGでVURの診断時から、1年目生検まで逆流防止術が行われた症例はなかった。VUR有無の2群比較の臨床因子としてドナー年齢・性別、レシピエント年齢・性別、原疾患CAKUTの有無、術前透析期間、尿路感染既往、生検時eGFR・検尿所見(尿蛋白、尿潜血、尿白血球)に有意差は見られなかった。組織所見として、バンフスコア(t, i, ct,ci)、THP間質逸脱、FSGS、髄放線障害(3か所以上をあり, Hashimoto et al.Nephron 2020; 144 Suppl1: 79-85)、過去・1年目生検時の拒絶反応に両群で有意差は見られなかった。
VUR高度・軽度・なしの3群比較の検討では、上記因子を検討の上、尿路感染既往、iスコア、THP間質逸脱、FSGSに3群間で有意差があった(尿路感染既往: 高度 3例(50%)、軽度1例(8.3%)、なし5例(7.2%), P=0.004, iスコア:高度0.50 ± 0.55, 軽度 0.17 ± 0.58, なし: 0.10 ± 0.35, P=0.013、THP間質逸脱: 高度0例(0%), 軽度6例(50%),なし8例(11.6%)、P=0.002, FSGS: 高度 1例(16.7%), 軽度 0例(0%), なし0例(0%)、P=0.001)。群間の有意差の検討では、iスコアは高度群となし群に有意差があった(Steel-Dwass法)。尿路感染既往は高度群となし群・高度群と軽度群、THP間質逸脱は高度群となし群・軽度群となし群、FSGSは高度群となし群にそれぞれ有意差があった(Bonferroni法)。
【考察と結論】VUR有無の2群間では組織所見に有意差はみられなかった。VUR高度・軽度・なしの3群比較において、VUR軽度群では組織傷害に与える影響は乏しいと考えられた。VUR高度群は6例と症例数が少ないものの、iスコアが高く、1例ではあるがFSGSが観察された。THP間質逸脱はVUR高度群6例では観察されず、同所見のみでは疾患特異性が乏しい可能性が考えらえた。
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