偶発的に膜性腎症の持ち込みが判明し、移植後にIgG沈着が減弱した生体腎移植の一例
A case of living related-renal transplant with attenuating IgG deposition of incidental membranous nephropathy derived from the transplant donor

北海道大学病院 病理部/病理診断科
* 大塚 拓也、岡崎 ななせ、清水 亜衣、高桑 恵美
北海道大学病院 泌尿器科
岩原 直也、田邉 起、堀田 世記彦
北海道大学病院 腎臓内科
黒鳥 美智子
市立札幌病院 病理診断科
辻 隆裕

 症例はfocal segmental glomerulosclerosisによる慢性腎不全に対して7年前から血液透析歴がある50歳台女性。ドナー候補の夫に蛋白尿、血尿、腎機能障害は認めなかった。レシピエントはpreformed DSAを有していたため、tacrolimus(Tac)、mycophenolate mofetil(MMF)、rituximab 200mgと血漿交換による前処置後の後、夫をドナーとするABO不一致適合生体腎移植が実施された。移植0時間目と1時間目のプロトコル生検で糸球体係蹄にbubbling appearanceが認められ、蛍光抗体法で糸球体係蹄にIgGとC4dが顆粒状に陽性、IgG subclassはIgG4>IgG1>IgG2=IgG3であった。免疫染色でPLA2R、THSD7A、NELL1、EXT1は陰性であった。以上、一次性の膜性腎症の持ち込みと判断された。Ehrenreich-Churgの分類はStage Tであった。レシピエントはTac 5 mg/day、MMF 1500 mg/day、methyl prednisolone 4 mg/dayで維持され、ドナーは当院腎臓内科で経過観察となった。移植後もドナーとレシピエントに有意な蛋白尿は認めなかった。Cytomegalovirus(CMV)既感染者から未感染者への移植であったため、レシピエントは移植後からvalganciclovirを予防投与されていたが、移植126日目にCMV血症が出現した。移植169日目のプロトコル生検では、糸球体係蹄のbubbling appearanceは残存していたが、蛍光抗体法でIgG沈着が±まで減弱していた。C4dは著変なく残存していた。血管型拒絶(v1, g1, ptc1/focal, i0, t0,C4d0)が出現していたが、CMV血症を併発していたため抗ウイルス療法のみで経過観察となった。

 以上の経過から、ドナー由来の膜性腎症のIgG沈着はレシピエント内でwashoutされ得ることが示唆された。本例の特徴として糸球体係蹄にC4d沈着を伴っており、文献的考察を加えて報告する。

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