生体腎移植後10年目に感染関連糸球体腎炎を発症し治療に苦慮した一例
A case of rapidly progressive infection-related glomerulonephritis in a renal allograft

市立札幌病院 腎臓内科
* 大寺 紗夜、牧田 実、古川 將太、島本 真実子
市立札幌病院 腎臓移植外科
高田 祐輔、佐々木 元、田邉 起
市立札幌病院 病理診断科
岩崎 沙理、辻 隆裕

 感染関連糸球体腎炎(IRGN)は、主に細菌感染を契機に発症する腎炎の総称であり、高齢者や基礎疾患を持つ易感染性の患者において経験することが多い。一方で、腎移植患者では移植後の感染症が高頻度であるにも関わらず、IRGNの発症は稀であり、その報告は少ない。今回、肺炎の治療後に急速に腎機能の低下を認め、治療に難渋した症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。
 症例は45歳男性。15歳で蛋白尿を指摘され、27歳で腎生検によりIgA腎症と診断された。その後、末期腎不全に至り31歳から腹膜透析が開始された。34歳で母をドナーとした血液型適合生体腎移植を施行された。導入免疫抑制薬は、TACER、MMF、mPSLであった。移植後9日目にborderline change(i1, t1)に対してステロイドパルス療法を施行された。また、移植後4か月で、急性T細胞性拒絶反応TAに対してステロイドパルス療法、グスペリムス塩酸塩で治療された。以後、腎機能はCr 2.0 mg/dl前後で推移したが、移植後5年5か月で、Cr 2.96 mg/dlと腎機能の低下があり、腎生検でIgA腎症の再発と診断された。両側口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法が施行され、以後、Cr 2.1-2.3 mg/dl、尿蛋白 1.2-1.4 g/gCr前後で経過した。
 移植後10年5か月でインフルエンザ桿菌による細菌性肺炎を発症し、抗菌薬による治療で速やかに改善した。しかし、肺炎発症から4週後にCr 3.14 mg/dl、尿蛋白11.08 g/gCr、尿RBC 50-99 /HPFと高度な尿所見異常を伴う急速な腎機能の低下を認めた。腎生検では、細胞性半月体や管内細胞増多を認め、糸球体にC3、IgMの沈着があり、活動性の高い半月体形成性糸球体腎炎の所見であり、臨床経過と合わせIRGNと診断された。また高度のCNI細動脈症も指摘された。急速進行性糸球体腎炎を呈しており、ステロイドパルス療法後にPSL 30mg/日を投与され、TACERを減量した。尿蛋白は減少し短期間でのグラフトロスは回避することができたが、治療後に再度肺炎やサイトメガロウイルス抗原血症を発症し、ステロイド治療は早期漸減とした。腎移植後IRGNの治療法は確立されておらず、短期間でグラフトロスに至る症例も多い。本症例においては、ステロイドによる一定の治療効果を得られたが、再度感染を繰り返した経緯から免疫抑制が過剰になった可能性が考えられた。今後、更なる病態の解明や適正な治療の確立が待たれる。

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