腎移植後de novo腎炎による急性尿細管壊死回復遅延が疑われた1例
Prolongation of acute tubular necrosis associated with de novo glomerulonephritis-induced nephrotic syndrome after kidney transplant

自治医科大学 腎泌尿器外科学講座 腎臓外科学部門
* 岩見 大基、西田 翔、南園 京子、須田 遼祐、大山 雄大、佐々木 元
自治医科大学附属病院 病理診断部
三浦 珠希、福嶋 敬宣
市立札幌病院 病理診断科
辻 隆裕

【症例】60歳代男性、糖尿病性腎症による慢性腎不全で4年の血液透析を経て、妻をドナーとした血液型適合生体腎移植を施行した。免疫学的リスクは血液型適合、既存抗ドナー抗体陰性で、タクロリムス(TAC)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メチルプレドニゾロン(mPSL)、バシリキシマブ(BXM)の4剤で免疫抑制導入した。移植腎の温阻血時間は1分30秒、総阻血時間は70分で即座に初尿を得たが腎動脈吻合部から出血あり15分間腎動脈を再阻血して止血縫合を追加した。術直後、尿は出続けたものの術翌日(POD1)になり急激に尿量が低下した。尿管ステント留置中ながらも水腎があったためステント閉塞による通過障害を疑いPOD4にステント抜去したが尿量は改善しなかった(水腎はその後消失)。よって術中の血流再遮断・止血操作の影響による急性尿細管壊死(ATN)として血液透析を行いながら腎機能の改善を待った。しかしながら無尿のまま経過し、POD13に移植腎生検を施行したが光顕上は糸球体の虚脱傾向以外は特記すべき所見はなかった。引き続き血液透析を施行も尿量は1日200mL前後で推移した。なお、その間尿路感染症と思われる発熱を数回繰り返した。POD23とPOD45の移植腎生検でも光顕では軽度の尿細管上皮細胞空胞変性や虚脱した糸球体を認めるものの腎機能発現遅延を十分説明できる所見は認められなかった。ここで、移植後比較的早期から乏尿ながらも尿蛋白定性3+、3g/日以上の蛋白尿と低蛋白血症の持続していることが判明し、さらにPOD23とPOD45の生検の電顕にて糸球体足細胞にglobalなfootprocess effacementを認め、同時期の高度蛋白尿との関連が疑われた。微小変化群や巣状分節性糸球体硬化症などの移植後de novo腎炎によるネフローゼ症候群と考え、POD55よりステロイドパルス(mPSL 500mg3日間)および6回の血漿交換療法を行ったところ、徐々に尿蛋白が減少し血清アルブミン値も上昇傾向となった。それに伴い尿量も徐々に増加し、POD76で透析を離脱できた。現在移植後8ヶ月経過しており、移植腎機能は良好(Cr 0.65mg/dL、尿中蛋白/尿Cr比=0.227g/gCr)に推移している。

【考察・結論】本症例の原疾患は腎生検で確認済みの糖尿病性腎症であり、高度蛋白尿は移植後de novo糸球体腎炎によると考えられる。複数回の尿路感染症に加えde novo糸球体腎炎による低アルブミン血症が引き起こす腎灌流障害が術後ATNの回復遅延をきたしたと考えているが、病態については十分理解できていない部分があり、病理所見と合わせてご意見を頂きたい。

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