WT1異常症を伴うFSGSを原疾患とし、移植後早期にFSGS病変を呈した1例
A case of FSGS early after transplantation with original disease of FSGS with WT1 mutation

東邦大学医学部 腎臓学講座
* 小口 英世、高上 紀之、宍戸 清一郎、河村 毅、板橋 淑弘、篠田 和伸、村松 真樹、濱崎 祐子、酒井 謙
山口病理組織研究所
山口 裕
神戸大学大学院医学研究科 内科系講座小児科
野津 寛大
昭和大学医学部 顕微解剖学
本田 一穂
東邦大学医学部 病理学講座
三上 哲夫
聖マリアンナ医科大学 泌尿器科
篠田 和伸

【症例】9歳時に学校検尿で蛋白尿を指摘され、X-14年の腎生検でFSGSと診断された。遺伝子検査では本人のみWT1異常症が検出され、父、母にはWT1異常症は検出されなかった。X年(29歳時)に母親(60歳)をドナーとした血液型適合生体腎移植を施行。移植後4か月でFSGS病変が出現した。徐々に蛋白尿が増加し、移植後1年1か月の腎生検では領域性の線維化(Fig.1)、既存の線維内膜肥厚像の内側に浮腫性内膜肥厚像を認める強い小動脈硬化(Fig.2)、上皮過形成が目立つcollapsing様のFSGS病変を認めた(Fig.3)。動脈炎を含め、明らかな拒絶反応を示唆する所見は認めなかった。電顕では足突起の癒合は部分的であった。ステロイドパルス、リツキシマブ、血漿交換を行い、さらにARBを導入し、蛋白尿は改善傾向を示した。移植後2年4か月のフォロー生検では上皮の過形成は改善しており、分節性硬化所見のみ残存した。その後、遷延する肝障害に対して、慢性E型肝炎と診断され、タクロリムスを減量したところ、移植後3年生検ではactive ABMR, FSGSの所見がみられた。その後進行的に腎機能が増悪し、移植後3年6か月でグラフトロスに至った。

【考察】本症例の移植前後のFSGS病態について、1. 移植前は末期腎不全の経過がslow progressiveであり、移植後は比較的急速に蛋白尿が出現している点、2. FSGSの形態像が移植前後で異なる点(移植前はperihilar、移植後はcollapsing様)、3. 電顕像について、移植前は比較的広範な足突起癒合がみられるのに対し、移植後の足突起癒合は部分的である点、などから基本的には移植前後のFSGSの病態は異なると考えている。
近年ドナー腎摘出後の残腎動脈狭窄症により悪性高血圧が生じ、分枝動脈の支配領域における糸球体高血圧により、TMA病変を伴うcellular, collapsing様のFSGSを生じた症例が報告されている(Nagata et al. CEN case rep2017; 6(1): 12-17)。本症例の移植後FSGSの病因として、明らかなetiologyは不明であるが、高血圧やCNI血管毒性が関与した血管内膜病変により部分的に高度の小動脈硬化を来し、非硬化血管領域のネフロンに糸球体内高血圧が生じてcollapsing様のFSGS病変を呈した可能性を考えている。

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