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【背景と目的】移植腎に観察される尿細管上皮多核化の病理学的意義は明らかにされておらず、拒絶反応を認めない組織でも観察されることが指摘されている(山口裕、日腎会誌 2011; 53(4): 586-595)。本研究は移植後1年目生検における尿細管上皮多核化の臨床病理学的意義を明らかにすることを目的とした。
【方法】2016年1月〜 2017年12月に当院で移植が行われ、移植後1年目生検が施行されている58例を対象とした。
20歳未満の小児例は除外した。尿細管上皮多核化は『近位尿細管上皮で3核以上の多核化がみられるもの』とし、尿細管上皮多核化の箇所を其々の症例で評価し、中央値で2群にわけて臨床・病理因子を比較した。「過去の尿細管炎」は1年目生検より前の生検におけるt scoreの最大値、「過去のCMVウイルス量」は1年目生検より前のCMVアンチゲネミア数の最大値と定義した。移植直後のMAG3を用いたレノグラムによるATNパターンを既報(PLOS ONE 2018, Mar21 ;13(3))に従って分類した。病理スコアはバンフ分類を用いた。
【結果】移植後1年目生検における多核化が1か所以上観察される症例は54例(93%)であった。
1年目生検における尿細管上皮多核化の中央値は3箇所(最小値0, 最大値71)であった。
中央値でGroup A(>3か所, n=24)、Group B(≦3か所, n=34)の2群に分けて解析を行った。両群において1年生検より前/ 1年目生検時のABMR、レノグラムによるATNパターン、過去のCMVウイルス量、献腎移植、ドナー/レシピエント年齢、1年目生検時のct/ci・ah/aah scoreに有意差はなかった。過去の尿細管炎に関して、Group AがGroup Bに比較して有意にt scoreが高かった。過去の尿細管炎16例の内訳は(t3, i2):1例、(t3, i1): 1例、(t2, i0):1例、(t2, i1): 1例、(t1,i1): 3例、(t1, i0): 9例であった。
【結論】移植後1年目生検においては、多くの症例で尿細管上皮多核化が観察された。移植腎における尿細管上皮多核化は、過去の尿細管炎と関連している可能性が示唆された。 |