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【背景と目的】移植腎生検における慢性活動性抗体関連型拒絶反応(CAABMR)において、メサンジウム融解(Mesangiolysis, 以下MGLS)はしばしば観察される。初期のバンフレポート(Racusen et al. kidney international 1999)においても移植糸球体症ではしばしばMGLSが観察され、硬化性病変の進展につながる旨が述べられている。
メサンジウム融解には拒絶反応以外に、糖尿病、高血圧、シクロスポリンなどの関与が知られているが(糖尿病性腎症と高血圧性腎硬化症の病理診断への手引き, 日本腎臓学会誌2015)、CAABMR組織におけるMGLSの成因は明らかにされていない。本研究はCAABMR組織におけるMGLSの成因について、免疫学的・非免疫学的要素との関連や、急性・慢性組織所見との関連性について検討を行うことを目的とした。
【方法】2016年1月〜 2019年12月に当院で施行された移植腎生検でCAABMRと組織的に診断されている41例を対象とした。対象年度内に重複生検が施行されている場合は初回にCAABMRと組織診断された検体を用いて解析した。MGLSの定義は既報(AJKD1998 Apr;31(4):559-73, 糖尿病性腎症と高血圧性腎硬化症の手引き2015)を参考に、1.メサンジウム基質の融解、2.嚢胞状の拡張、3.内皮下腔の開大、4.結節性病変の4つの病変のうち、1
つでも満たしているものはMGLS有とした。DM、高血圧、腎機能、蛋白尿、CNI (TAC/CYA)、CNIトラフ値については生検時のデータを採用した。高血圧gradeは生検時の血圧と降圧剤服用において、grade 2: 140/90mmHg以上、grade 1: 降圧剤使用下で140/90mmHg未満、grade 0: 降圧剤使用なしで140/90mmHg未満の三段階の評価を用いた。MGLS有無でグラフトロスをアウトカムとしてdeath censored graft survivalをログランク検定で解析した。
MGLSのリスクを、変数増加法によるロジスティック回帰分析による多変量解析を用いて独立因子を検討した。臨床的な説明変数はメサンジウム融解との関連性の既報(AJKD1998 Apr;31(4):559-73, 糖尿病性腎症と高血圧性腎硬化症の手引き2015)から、CNI (TAC/CYA)、DSA、糖尿病、高血圧grade(clinical model 1)、clinical model 1の4因子に加えて単変量解析で有意となった臨床因子(clinical model 2)を説明変数として採用した。組織因子はバンフg,ptcの急性炎症スコアに加えて、単変量解析で有意となった因子を説明変数として採用した。mmスコアはMGLS診断との干渉を考えて除外した。
【結果】MGLSはCAABMR41例中15例に観察された(36.6%)。メサンジウム基質の融解は12例、嚢胞状の拡張は7例、内皮下腔の開大は7例、結節性病変は3例に観察された。eGFRはMGLS群で有意に低下、蛋白尿は有意に増加しており、Death-censored graft survivalの検定ではMGLSはグラフトロスを有意に予測した。CNIトラフはMGLS有無で有意差は見られなかった。CNI (TAC/CYA)、DSA、糖尿病、高血圧grade(clinical model 1)で多変量解析を行うと高血圧gradeがMGLSの有意な独立リスク因子であった。さらにclinical model 1に加えて単変量解析で有意となった移植後から生検までの期間、eGFR、蛋白尿の計7因子(clinical model 2)で多変量解析を行っても、高血圧グレードのみMGLSの有意な独立リスク因子であった。組織では、単変量解析で有意となったg,ci,cg,ahに有意でなかったptcを加えて多変量解析を行ったところahのみ独立してMGLSと有意に関連していた。
【結論】CAABMRにおけるMGLSはグラフト予後不良因子であると考えられた。MGLSには急性期の炎症スコアより慢性スコアであるahスコアとの関連性が示唆され、MGLS進展に高血圧が関与する可能性が示唆された。 |