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症例は44歳男性で、原疾患不明の慢性腎不全のため42歳時に血液透析が導入された。44歳時に74歳の父をドナーとする腎移植を希望され当院を受診した。既往歴、併存疾患は高血圧のみで、輸血歴はなかった。血液型はレシピエントO型ドナーA型で、HLA-A、B、DR、DQは3ミスマッチであり、CDCクロスマッチ、FACSクロスマッチいずれもT細胞、B細胞陰性であった。移植前抗A IgG抗体価64倍、IgM抗体価256倍であり、当院におけるIgG抗体価64倍以下での血漿交換回避プロトコールに従い血漿交換は行わなかった。術前脱感作療法は、リツキシマブ100mgを術前10日前と1日前の2回投与し、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル(1750mg/日)、メチルプレドニゾロン(12mg/日)を術前10日前より開始した。グラフトの腎動脈は1本で血管吻合は問題なく終了した。血流再開後30分、膀胱尿管吻合の最中に移植腎の色調が暗赤色となっていることを発見した。血管の位置異常はなく、すぐさま体外で再還流を行った。ウロキナーゼ添加Euro-Collins液を使用したが、グラフト内の圧が高く全く還流が出来ない状態であり、すぐさま腎生検を施行した。迅速の光顕で、糸球体にびまん性に赤血球のうっ滞を認めた。還流の状況及び迅速病理の所見より超急性型拒絶反応に矛盾しないと判断し、再度の血管吻合を断念した。永久標本の1h光顕所見では、細動脈、糸球体、ptc、髄質直血管において好中球のうっ滞および充血と散在性のフィブリン血栓を認めた(Fig. 1 〜 3)。一方で小葉間動脈より中枢の動脈には血栓像は目立たなかった。酵素抗体法によるCD34染色を行ったところ、糸球体及び直血管に内皮障害を示唆する所見があった。蛍光抗体法では、糸球体係蹄壁及びptcにIgG(+), IgM(+), C3(++), C4d(+)でありlinear patternを呈していた。IgGサブクラス染色ではIgG2が有意に陽性で、特にptcに目立って沈着していた(Fig.4)。以上より、糸球体をはじめptcや直血管など主に末梢動脈系が傷害された組織で、術前クロスマッチ検査は陰性でありABO抗体関連の超急性拒絶反応の所見である可能性が強く推察された。当院では43例に対し術前血漿交換回避プロトコールを適用したが、術中に抗体関連型拒絶反応を来したのは本症例のみである。血液型不適合移植に伴う抗体関連型拒絶反応の好発時期は術後数日と理解されていることが多く、新規HLAドナー抗体の関与も示唆されている。しかしながら、本症例ではHLA抗体の関与もなく、血液型抗体のみによる超急性拒絶反応を発症した。本症例のように術前抗体価のみでは予測し得ない、血管内皮の血液型抗原類似糖鎖と血液型抗体の反応を来す症例も存在する可能性があり、今後の術前脱感作療法を再考する上で本症例は貴重な一例であると考えられる。 |