移植腎晩期組織における小葉間動脈中膜平滑筋組織を置換する硝子化病変の病理学的検討

東邦大学医学部 腎臓学講座
* 小口 英世、酒井 謙、板橋 淑裕、河村 毅、村松 真樹、兵頭 洋二、
高橋 雄介、二瓶 大、大橋 靖、濱崎 祐子、宍戸 清一郎
山口病理組織研究所
山口 裕
東邦大学医学部 病理学講座
三上 哲夫
東邦大学医学部病院 病理学講座
根本 哲生、渋谷 和俊

 移植腎組織におけるカルシニューリン阻害剤(CNI)の慢性期の血管毒性は、主に輸入細動脈壁の中膜平滑筋細胞の変性萎縮・壊死に伴い硝子様物質が沈着するものとされ、aahスコアを用いて評価されている。昨年の移植腎病理研究会にておいて我々は、移植後晩期(移植後8年目以降)の組織標本で、輸入細動脈より末梢の髄質直血管(vasa recta)の硝子化病変が、輸出細動脈まで硝子化が及ぶ重症なaah病変と関連することを報告した。今回我々は、移植腎晩期組織において、輸入細動脈より中枢部の小葉間動脈の平滑筋組織を置換する硝子化病変(Interlobular hyaline arteriopathy: iha)とaah病変の関連に注目した。
 2012年4月〜 2015年12月に生体移植腎生検検体で、糖尿病原疾患、移植後糖尿病と診断されている症例は除外し、移植後晩期(8年目以降)の組織を検討した。小葉間動脈が観察可能な組織標本33例のうち、ihaは19例に観察された。iha(+)群19例のうち、小葉間動脈末梢(Fig1)は8 /19例、皮髄境界に存在する小葉間動脈中枢のiha病変(Fig2)は3/19例で、両者に観察された検体は8/19例であった。iha(+)群19例のうち細動脈硝子化のaahスコアはaah3: 10例、aah2: 7例、aah1: 2例であった。iha(-)群14例のうち、aahスコアはaah2:5例、aah1: 6例、aah0: 3例であり、iha(+)群は(-)群に比してaahスコアが有意に高い結果となった(P<0.01 mean score test)。
 移植腎組織において、小葉間動脈平滑筋部を置換する硝子化病変は重症なCNI毒性と関連する可能性がある。小葉間動脈平滑筋硝子化の局在の検討では、細動脈から連続した小葉間動脈末梢だけでなく、皮髄境界に存在する小葉間動脈中枢にも観察された。血管内皮障害が輸入細動脈〜小葉間動脈中枢部まで及んでいく機序に加え、弓状動脈から分岐後の高い圧力に暴露される緊張度が高い血管であるstrain vesse(l Ito S et al. Hypertens Res. 2009)にもCNIの血管毒性が生じやすい機序も推察される。

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