移植腎におけるde novo membranous nephropathy stage 0の臨床病理学的検討
A clinicopathological study of de novo membranous nephropathy stage0

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
* 勝馬 愛、中田 泰之、山本 泉、横尾 隆
東京女子医科大学 泌尿器科
奥見 雅由、石田 英樹、田邉 一成
東京女子医科大学 腎センター
堀田 茂
東京女子医科大学 腎臓小児科
服部 元史
山口病理組織研究所
山口 裕

【背景】新規膜性腎症(de novo membranous nephropathy: dnMN)は移植腎の1.8-2.3%で生じ、腎移植後のネフローゼ症候群の頻度としては、Transplant glomerulopathy(TGP)に次いで2番目に多く、移植腎喪失に寄与するとの報告もある。今回我々は凍結切片に対する蛍光抗体法(IF)でIgGが糸球体係蹄に顆粒状陽性を示し、かつ電子顕微鏡(EM)で明らかなdense depositの沈着を認めない症例を「dnMN stage 0」と定義し、dnMNの早期病変に対する臨床病理学的検討を行った。

【対象と方法】2003年4月〜 2017年3月の間に東京女子医科大学泌尿器科にて生検された移植腎症例4625検体のうち、allograft membranous nephropathyと診断された55検体(42例)を抽出し、ドナーからの持込み膜性腎症(transmitted membranous nephropathy: tMN)(12例)と、原疾患がMNであった再発性膜性腎症(recurrent membranous nephropathy: rMN)(2例)を除外し、残る28例がdnMNであった。このうち、1)IFでIgGが係蹄壁に顆粒状に陽性で、2)EMで明らかなsubepithelialおよびintramembranous dense depositを認めなかったdnMN stage 0症例を対象とした。dnMN stage 0のEMにおいて@foot process effacement(FPE)、Afoot process material(cytoskelton)凝集、Bdence microinvagination(foot processから糸球体係蹄基底膜の緻密層に達するhigh densityで微小な陥入所見)の程度を評価し、東京女子医科大学腎臓小児科で腎生検を施行した微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome: MCNS)症例と比較検討した。

【結果】検討出来たdnMN stage 0症例は4例で、男性2例、女性2例、年齢は20 〜 40歳(平均29歳)であり、生検は移植後465 〜 5662日(平均3786日)後に行われた。4例ともCr値上昇によるepisode biopsyであり、1例は蛋白尿陰性であった。全例でIFのC4dは係蹄壁に陽性であり、全例でPLA2Rは陰性、IgGサブクラスはIgG1、IgG3>IgG4であった。4例中3例で、随伴する慢性抗体関連型拒絶反応の所見を認めた。1例では、dnMN stage 0を呈した後、およそ9ヶ月後にdnMN stage I 〜 IIへの進展を確認できた。dnMN stage 0症例のEM所見ではMCNS症例と比較して@より軽度でfocalなFPEを認め、Afoot process materialの程度は同等であった。また、dnMN stage 0で認められたBの所見は、MCNSでは明らかではなかった。

【考察】dnMN stage 0からstage I 〜 IIに進展した例では、既報と同様にsubepithelial depositの局在がfocal & segmentalであり、部位によってはdense depositのwashout像もみられ、MNの様々なstageが混在して認められていた。dnMN stage 0においてみられたBmicro dense invaginationは、MCNS症例ではみられなかったことから、dnMNの超早期病変である可能性が示唆された。IF-IgGが係蹄で顆粒状陽性、C4dも係蹄に陽性となる所見に留意することで早期dnMNを検出しうる可能性がある。係蹄壁へのIgG、C4dの沈着とEMでの初期変化の関連やdnMNの発症機序について言及するには、症例の蓄積とより詳細な検討が必要と考えられる。

【結語】IFで係蹄にIgG顆粒状陽性を認め、EMで明らかなdense depositを認めないdnMN stage 0の存在が確認された。

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