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【背景】生体腎移植ドナーはドナー基準で選ばれた健常成人といえるが、近年ではドナーの高齢化を含むマージナルドナーからの移植が容認されているのが現状である。これらのドナー腎は、動脈硬化病変やネフロン数の低下などが少なからずベースに存在する可能性が考えられる。生体腎移植におけるベースラインの組織学的評価と長期の移植腎予後との関連性については十分には検討されていない。
【目的】移植腎ベースライン生検の病理像と移植腎予後の関連性を検討する。
【方法・対象】2006年4月から2011年4月に千葉東病院で行われた5年以上経過している生体腎移植症例のうち、ベースライン生検(1時間後生検)が評価可能(糸球体数10個以上)であり、拒絶反応、BK腎症、再発性腎炎を除外した40人を対象とした。糸球体密度(glomerular density: GD)については糸球体数/皮質面積にて算出し、ネフロン数の低下の指標とした。その他の病理学的指標としては、Banff分類のci ct, 球状硬化糸球体率、動脈硬化病変(小葉間動脈の内膜肥厚、細動脈硝子化)を計測した。5年後の移植腎機能(eGFR)をアウトカムとして1時間後生検でのこれらの病理所見との関連性をlogistic回帰分析による単変量および多変量解析で検討した。また、年齢による層別化を行い、高齢ドナー腎の病理学的特徴を調べた。
【結果】5年後の移植腎機能に関連する因子として、単変量解析では糸球体硬化率(10%以上)が有意に関連(OR=4.63, 95%CI :1.14-18.75, p=0.032)し、ci ctは有意差はなかったものの、関連する傾向があった。(p=0.065)GDや動脈硬化病変は関連因子となりえなかった。ドナー年齢(60歳以上)は有意差を認めたが、いずれの結果も多変量解析では差は認めなかった。ドナー年代別に検討した場合、40代以下(n=10)と比較して50代(n=16)、60代(n=7)、70代(n=7)では有意にci ct、小葉間動脈の内膜肥厚スコアは高くなっており、糸球体硬化率も70代については同様の結果であった。一方で70代の5年後移植腎機能(eGFR 32.7±17.3ml/min)は40代以下(eGFR 55.9±15.4ml/min)には劣るものの、50代(eGFR 41.8±9.4ml/min)、60代(eGFR 44.5±20.1ml/min)とは有意差を認めなかった。
【結論】ベースライン生検の球状硬化糸球体率やIF/TAは5年後移植腎機能に影響する可能性が示唆された。70代の高齢ドナーについては、球状硬化率、IF/TA、動脈硬化病変が他の年代に比して進展していることが確認された。また、ドナー年齢は、5年後移植腎機能では有意差がないものの、移植腎予後に関連する傾向があり、注意を要すると考えられた。 |