移植後にIgA1λ沈着型の単クローン性IgA腎症、IgG1κ沈着型のPGNMIDの合併を認め、2クローン性の免疫グロブリン沈着を呈する糸球体腎炎が疑われた腎移植患者の1例

東京女子医科大学病院 病理診断科
* 澤田 杏理、川西 邦夫、長島 洋冶
東京女子医科大学病院 第四内科
澤田 杏理、越智 文美、許田 瑞樹、田中 陽一郎、海上 耕平、新田 孝作
東京女子医科大学病院 泌尿器科
奥見 雅由、石田 英樹、田邉 一成
戸田中央総合病院 腎センター 移植外科
清水 朋一
東京女子医科大学病院 腎センター 病理検査室
堀田 茂
東京女子医科大学病院 第二病理
本田 一穂
川崎市立多摩病院 病理部
小池 淳樹

【症例】症例は28歳男性。原疾患不明の慢性腎不全で2008年(21歳時)より血液透析導入された。2010年(23歳時)に母親をドナーとしたABO不適合生体腎移植を施行された。術後0日の移植腎生検は拒絶反応などの有意な所見を認めず、退院後外来ではCr1.0mg/dL前後で経過していた。2011年(24歳時)に尿蛋白2、尿潜血2を認めた。移植腎生検施行され、IgA1λ鎖型の単クローン性IgA腎症と診断された。治療として扁桃摘出術、ステロイドセミパルス療法(500mg/日×3日間)を施行された。尿蛋白±、尿潜血±と尿所見は陰性化し、BUN 10.5mg/dL、Cr 0.99mg/dLと腎機能増悪を認めなかった。また治療後の移植腎生検では活動性を示唆する所見を認めなかった。2014年(27歳時)に両側下腿浮腫、急激な体重増加(10Kg/2週)を認めたため、当院泌尿器科を受診。受診時Cr1.74mg/dLと腎機能増悪を認めたためステロイドセミパルス(500mg/日×3日間)を施行された。一時的に尿蛋白、浮腫は減少したが、その後、浮腫の再増悪、尿蛋白(6.8g/日)を認め、再度入院の上でリツキシマブ(200mg)、ステロイドセミパルス(500mg/日×2日間)の投与を行われた。この際の移植腎生検で、管内増殖性腎炎を認め、蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA1、λの沈着、係蹄壁を中心にIgG1、κの有意な沈着を認め、電子顕微鏡所見で糸球体内皮下に細顆粒状の沈着物を認めたため、IgG1κ型の(PGNMID)と診断された。退院後も尿蛋白2 〜 3g/日、Cr2.0-2.5mg/日で経過したため2015年(28歳時)当院腎臓内科紹介となった。血漿交換施行しCr改善したが、尿蛋白持続したため2回目のリツキシマブ(500mg)を投与された。リツキサン施行後は尿蛋白0.5 〜 2g/dayと尿蛋白改善を認め、現在は当院泌尿器科、腎臓内科で外来フォローされている。
【考察】本症例は移植時の原疾患は不明であったが、移植後にIgA1λ沈着型単クローン性IgA腎症、IgG1κ沈着型PGNMIDの合併を認めた。2クローン性の免疫グロブリン沈着を示す糸球体腎炎の報告は少数であり、不明な点が多い。IgA腎症、PGNMIDの移植後再発に対しては扁桃摘出術、ステロイドパルス療法と血漿交換療法、リツキシマブの有用性がそれぞれ報告されている。本症例ではIgA腎症に対して扁桃摘出術、ステロイドパルス療法、PGNMIDに対してリツキシマブにより尿蛋白の改善を得た。病理学的所見、治療効果について文献的考察を交えて報告する。


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