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【目的】抗体関連型拒絶反応(Antibody-mediated rejection: ABMR)における傍尿細管毛細血管(peritubular capillary: PTC)へのC4d染色への信頼度は近年疑問視されるようになっている。一方でABMRは移植腎予後を著しく悪化させる拒絶反応であり、その迅速な診断・治療が不可欠である。C4dに代わるモダリティーとして、アルバータ大学はEndothelial-associated transcripts(ENDATs)を提唱し、内皮細胞障害検出の重要性を指摘しているものの、本検査を施行できる施設は限定されている。彼らはENDATsの中で、TCMRに比べてABMRで特徴的に増加する分子としてCaveolin-1(CAV-1)を証明しているが、この分子は、電顕で内皮細胞のカベオラとして確認できるという特徴を有する。今回我々は、病理学的に慢性抗体型拒絶反応(Chronic antibody-mediated rejection: CAMR)と診断された症例を対象とし、PTCにおけるCAV-1およびC4dの染色性と移植腎予後について評価することを目的とした。
【方法】2008年11月〜2011年8月の2年9ヶ月間に病理学的にCAMRと診断されたABO適合腎移植のべ28症例のうち、重複例、データ追跡困難例を除いた20例を対象群とし、長期腎機能の安定したコントロール群20例をretrospectiveに比較した。なお全例においてC4d陽性度、CAV-1陽性度を算出し、診断されてからの移植腎予後をKaplan-Meier法(log rank試験)を用いて評価した。CAMR例はCAV-1が全例陽性であったことから、対象群をさらにC4d陽性例と陰性例に細群化し、移植腎予後を評価した。
【結果】診断されてからの追跡期間は中間値で35ヶ月(対象群 29ヶ月(1-56)、コントロール群 41.5ヶ月(8-56))であった。C4d陽性率、CAV-1陽性率はいずれも対象群で有意に多かった。対象群のうちCAV-1は全例で陽性(100%)であったが、C4dは12例(60.0%)が陽性であった。移植腎喪失率は対象群で有意に多かった(8/20 v.s. 1/20, p=0.0104)。一方、対象群をC4d陽性例と陰性例に細群化し比較したところ、C4d陰性例でより移植腎予後が悪化した(3/12 v.s. 6/8, p=0.0459)。
【結論】本試験では、これまでの報告同様、CAMRは移植腎予後が悪いことを確認したが、さらにC4d染色性で2群に分けたところ、陰性例は陽性例に比べ移植腎予後不良という結果であった。したがって、CAMRでは、PTCにおけるC4d染色性によって移植腎予後を判別できない可能性が考えられた。一方、CAMR症例は全例がCAV-1陽性であったため、Transplant glomerulopathyやPTCBMMLなどの病理学的変化とPTCのCAV-1陽性が関連していることは示されたものの、PTCにおけるCAV-1染色性の有無が移植腎予後を判別可能かどうかは、更なる症例の集積が必要と考えられた。 |