長期生着腎における非顕性IgAメサンギウム沈着例の臨床病理学的検討

神戸大学医学部附属病院 病理診断科
* 原 重雄、伊藤 智雄
大阪中央病院 泌尿器科
市丸 直嗣
桜橋医誠会クリニック
京 昌弘
山口腎病理組織研究所
山口 裕
大阪大学大学院医学系研究科 先端移植基盤医療学講座
高原 史郎

【背景ならびに目的】尿所見が陰性でありながらIgAがメサンギウム域に陽性となる例(非顕性IgAメサンギウム沈着)は0時間生検やプロトコール生検でしばしば観察される所見であるが、その病理学的意義は確立されていない。2004年の本会において、移植後IgA陽性例9例を提示し(Clin Transplant 2005: 19. suppl. 14):32-40)、その臨床病理学的経過を報告した。今回我々は、長期生着腎の非顕性IgA陽性ならびにIgA陰性例を比較し、非顕性IgAメサンギウム沈着例の臨床病理学的ならびに疫学的特徴を検討した。

【方法】2008年1月〜 2011年3月までプロトコール生検が行われた症例のうち、移植後10年以上経過し、尿潜血が陰性の24例を対象とした。蛍光染色でIgAがメサンギウム域に1+未満であった群をIgA陰性例(IgA−、16例)、1+以上であった群を非顕性IgA陽性例(IgA+、8例)とし、両群について生検時血清クレアチニン値(Cr)、生検5年前からのCr変化(Cr-5)、Banff分類(2009)に基づいた各病理組織スコア、糸球体硬化率の比較検討を行った。レシピエントのHLAが判明したものについては、各HLA抗原(HLA-B35, -B51, -DR4抗原)の陽性頻度を比較検討した。

【結果】Cr, Cr-5, Banff分類各スコア、糸球体硬化率いずれも、両群で有意な差を認めなかった。HLA抗原陽性率は以下の通りであった:HLA-B35(IgA−:30.8%、IgA+:16.7%)、HLA-B51(IgA−:15.4%、IgA+:16.7%)、HLA-DR4(IgA−:30.8%、IgA+:60.0%)。

【結論】非顕性のIgAメサンギウム沈着はグラフト腎機能に影響を及ぼさない。非顕性IgAメサンギウム沈着例ではHLA-DR4陽性率が高かったが、有意なものではなかった。


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