生体腎移植直後よりネフローゼ症候群を呈したI型糖尿病の1例

長崎大学大学院 腎泌尿器病態学
* 望月 保志、岩田 隆寿、酒井 英樹
長崎大学病院 血液浄化療法部
浦松 正、錦戸 雅春
長崎大学大学院 病態病理学
田口 尚

 症例は62歳男性。1991年(43歳時)I型糖尿病を指摘され、インスリン治療開始。2002年7月(52歳時)血液透析導入。透析導入前にネフローゼ症候群と考えられる臨床経過なし。2010年10月妻をドナーとしたABO血液型 不適合生体腎移植施行(AB型→B型、術前抗A抗体価4倍)。術前脱感作療法は移植前Rituximab 200mg, 100mg投与、術前日血漿交換1回施行。導入免疫抑制療法はBasilliximab / Cyclosporin / MMF / Methylpredonisolone。移植後2日目より高度蛋白尿(13-35g/day)出現。以後血漿交換12回、ステロイドパルス療法 500mg×3日間、ARB投与、CNI変更施行したが、蛋白尿は3-5g/day程度で寛解には至らず、移植後2カ月s-Cr 1.21mg/dl(尿蛋白5.0g/gCr)で退院。移植後4カ月s-Cr 1.88mg/dl(尿蛋白 3.9g/gCr)と移植腎機能悪化し再入院。再度血漿交換、ステロイドパルス療法および維持ステロイド増量を行い、s-Cr 1.47mg/dl(尿蛋白 0.4g/gCr)と改善し退院。移植後6ヵ月にて s-Cr 1.42( 尿蛋白 0.7g/gCr)と蛋白尿は現在も持続している。
 病理所見は移植後6日目(高度蛋白尿出現時)足突起の癒合を認める以外には糸球体には病変を認めず、MCNSを思わせる像であった。移植後1ヵ月目(初期治療施行後)も前回と同様の所見。さらに移植後4ヵ月目(蛋白尿増悪時)は薬剤性尿細管障害の像を一部に認めるが、やはり糸球体病変はMCNSと考えられる所見であった。
 本症例は移植直後より高度蛋白尿を呈し、臨床経過あるいは病理学的に移植後ネフローゼ症候群の原因が不明である。臨床的あるいは病理学的に非常に興味深い症例と考え、本研究会に提示する。


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