高度の毛細血管炎を呈する急性拒絶反応の後、難解な糸球体病変を呈し、移植後3年で機能廃絶した生体腎移植例

九州大学大学院 病態機能内科学
* 土本 晃裕、升谷 耕介、春山 直樹、上村 麻衣、
野口 英子、鶴屋 和彦、北園 孝成
九州大学大学院 臨床・腫瘍外科学
岡部 安博、北田 秀久、田中 雅夫
国立病院機構福岡東医療センター
片渕 律子

 症例は22歳、男性。中学生の時に初めて尿蛋白を指摘されたが、腎生検は未施行であった。18歳時に末期腎不全となり血液透析を導入、19歳時に父親をドナーとする血液型適合生体腎移植術を施行した。免疫学的検査ではHLA 2 mismatch、Direct cross match陰性、FCXMはT-cell, B-cellともに陰性、FlowPRA screeningでclass Iが 弱陽性であったが、抗ドナー抗体(DSA)は陰性であった。導入免疫抑制はBasiliximab, Tacrolimus(TAC), mPSL, MMFの4剤であった。退院時のCr は0.95mg/dlで、その後も1.0-1.3mg/dl程度で良好に経過していた。移植から 25ヶ月後にCrが2.1mg/dlに上昇したため生検を施行、中等度の間質細胞浸潤と尿細管炎に加え、好中球を含む高度の糸球体炎および傍尿細管毛細血管(PTC)炎を認めた。PTCには巣状のC4d沈着(c4d score 2)を認めた。急性T細胞関連拒絶(grade Ia)と急性抗体関連拒絶の合併を疑い、ステロイドパルス療法と血漿交換を行ったが、移植腎機能の改善を認めなかった。後日判明したFlow PRAの結果、DSAは陰性であった。8週間後の再生検ではPTC炎が遷延していたが、間質細胞浸潤と尿細管炎は改善し、C4d沈着も軽減していた。31 ヶ月後、Cr 3.03mg/dlへ上 昇し、尿蛋白(3 )、UP/UCr 3.7、潜血(1 )、赤血球沈渣1-4/HPFの検尿異常と溶血性貧血の所見を認め、末梢血に破砕赤血球が増加していた(20‰)。生検では糸球体内への泡沫細胞浸潤、メサンギウム融解、びまん性の係蹄壁の二重化が新たに観察された。糸球体炎とPTC炎は持続していたが、PTCへのC4d沈着とDSAは今回も陰性であった。鑑別疾患としてTTPも考慮し、vonWillebrand factor multimerやADAMTS13を測定したが異常を認めなかった。 血漿交換を追加し、TACを減量したが、移植腎機能は進行性に低下し、移植36ヶ月後に血液透析再導入となった。 本症例では、毛細血管炎が高度かつ遷延し、糸球体病変が進行していくにもかかわらず、全経過を通じてC4d沈着は弱く、DSAも検出されなかった。当初は抗体関連拒絶を考慮した治療を行い、溶血性貧血や破砕赤血球の出現などからTTPも視野に入れ検査を進めたが診断を確定できなかった。本エピソードの病因および病理所見の解釈ついて御検討頂きたい。


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