移植後19か月に発症した小児plasma cell-rich acute rejection例

東京女子医科大学 腎臓小児科
* 近本 裕子、菅原 典子、藤井 寛、石塚 喜世伸、
久野 正貴、秋岡 祐子、服部 元史
東京女子医科大学 泌尿器科
清水 朋一、白川 浩希、石田 英樹、田邉 一成
東京女子医科大学 病理検査室
大野 真由子、中山 英喜、堀田 茂
東京女子医科大学 第二病理
本田 一穂
東海大学医学部 基盤診療学系病理診断学領域
小池 淳樹
山口病理組織研究所
山口 裕

【はじめに】有効な治療方法も確立されておらず、非常に予後不良とされるplasma cell-rich acute rejection(PCAR)の15歳女児例を経験した。診断と治療に苦慮したため報告する。
【症例】2008年4月、血液型不一致生体腎移植を施行。抗ドナー特異的HLA抗体(DSA)陽性であり、術前に血漿交換療法とrituximab、免疫抑制はFK506、MMF、mPSL、basiliximabを用い、術後放射線照射を施行した。
 術後経過良好であったが、2009年12月、S-Cr値が0.9mg/dlから4.3mg/dlへ急上昇。病理組織像では彌慢性に形質細胞を中心とする高度の細胞浸潤を認め、CD138、κおよびλの免疫組織学的検討にて、間質へのポリクローナルな形質細胞浸潤を確認した。またアデノウイルス、BKウイルス、JCウイルスの免疫組織学的染色がすべて陰性で、血清学的検査の結果も併せ、PCARの診断に至った。治療はmPSLパルスに抵抗したため、OKT3投与を行いS-Cr値は1.8mg/dlと安定した。残存する尿細管間質性拒絶反応に対し、deoxyspergulin(DSG)を追加した後S-Cr値は安定していたが、2010年2月に同拒絶反応の病理組織上の再燃を認め、mPSLを増量し、以後月1回、5日間のDSG反復投与を行いS-Cr値も安定していた。しかし2010年5月と12月に強いPCARの再燃(それぞれS-Cr値 3.7mg/dl、5.1mg/dl)を認めた。これに対しステロイドパルス療法1g 3日間2クールとDSGの併用を実施したところ不十分ながらも有効であった。しかし強い再燃のたびにS-Cr値のベースは上昇し、病理組織上も慢性障害所見が進行し、発症から約1年3か月後に腹膜透析へ再導入となった。
 PCAR初発時と5月の再発時に実施したFlow cytometric crossmatchは陰性、またLuminex single法によるDSAは 陰性であり、実施した7回すべての移植腎病理組織における傍尿細管血管のC4dは陰性であった。またPCAR初発および強い再燃時にはいずれも血清総蛋白、血清IgGの上昇を伴っていた。
【結語】PCAR初発時はmuromonab-CD3に続いて実施したDSG反復追加投与が、また再燃時はステロイドパルス療法とDSGの併用投与が不十分ながらも有効である可能性が示唆された。また、血清総蛋白、血清IgGの上昇が PCAR再燃の指標になる可能性が示唆された。今後PCARの病因病態の解明とともに、新たな治療法の確立が望まれる。


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