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移植後、妊娠・出産を契機に尿蛋白が出現し、二次性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と診断された症例を経 験したので報告する。症例は、31歳女性。1999年に逆流性腎症を原疾患とする慢性腎不全にて血液透析導入。2000年(21歳時)に母をドナーとして生体腎移植術を施行した。タクロリムス(FK)・ミコフェノール酸モフェチル(MMF)・プレドニン(PSL)にて維持免疫抑制療法を施行。血清クレアチニン値は1.0mg/dl未満で安定していた ため、2004年2月にPSLを中止した。2004年9月にcellular rejectionを来したため、ステロイドパルス療法およびスパニジン投与を行い、PSLを10mgで再開した。この際尿蛋白は認められなかった。2005年挙児希望にてMMFをミゾリビン(Mz)に変更した。2006年6月に妊娠が判明し、妊娠後期には尿蛋白が1.33g/dayと増加した。2006年12月帝王切開にて男児を出産した。出産後も尿蛋白が3g/dayと持続するため、2007年6月よりARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬)を投与したところ尿蛋白は消失した。2009年9月に2度目の妊娠にてARBを中止し、血圧コ ントロールのためCa拮抗剤を投与した。妊娠経過中に尿蛋白が増加し、定性で(2+)〜(3+)となった。2009年12月 切迫流産から死産となる。2010年3月血清クレアチニン値は1.09mg/dlと安定していたが尿蛋白が4.69g/dayと増 加したため、エピソード腎生検を施行した。糸球体は2/6個に球状硬化を認め、残存糸球体は腫大傾向(300μm) にあり1/4個に分節性硬化を認めた。また、巣状分節性に糸球体基底膜の肥厚と二重化を認めた。一方、尿細管・間質において、ネフロンの萎縮とその他の残存ネフロンの腫大を認めた。また、甲状腺様病変の周囲にリンパ球浸潤と形質細胞を認めたが、尿細管炎はなく、浸潤するリンパ球には幼若性を認めなかった。以上より、慢性腎盂腎炎に伴うネフロンの減少とその代償性のネフロン機能の亢進が糸球体の腫大並びに二次性FSGSを招来したと考えられた。現在ARB投与を再開したところ、尿蛋白は1.90g/dayと減少を認めており、血清クレアチニン値は1.13mg/dlと安定している。 |