移植腎への膀胱尿管逆流現象とウイルス感染の重複により多様な尿細管間質病変を呈した生体腎移植後の1幼児例

東京女子医科大学 腎臓小児科
* 石塚 喜世伸、近本 裕子、藤井 寛、谷口 貴実子、水谷 誠、
上田 博章、古山 政幸、梶保 祐子、秋岡 祐子、服部 元史
東京女子医科大学 泌尿器科
鈴木 万理、家後 理枝、石田 英樹、田邉 一成
東京女子医科大学腎センター 病理検査室
大野 真由子、中山 英喜、堀田 茂
兵庫県立こども病院 腎臓内科
下岡 武史、神田 杏子、田中 亮二郎
東京慈恵会医科大学附属柏病院 病理
山口 裕

【はじめに】生体腎移植後は術後免疫抑制が肝要である反面、特に小児腎移植例ではレシピエントが幼少の場合、各種ウイルスに未感染で、腎移植後のウイルス感染症が問題となることが多い。また、生後早期に無尿になった患児では、低膀胱容量のため、腎移植時の逆流防止術の実施が困難で、術後移植腎へ尿の逆流を生じることが多い。今回、膀胱低容量で、各種ウイルス抗体が陰性であった2歳の生体腎移植後患児の移植腎生検において、多様な尿細管間質病変を認めたため報告する。
【症例】先天性ネフローゼ症候群を原疾患とする現在3歳9ヶ月の女児。腹膜透析を経てほぼ無尿となり、2歳3ヶ月時に父をドナーとする血液型不一致生体腎移植術を施行した。抗ドナーHLA抗体陽性のため術前に3回の全血漿交換療法を実施し、初期免疫抑制はバシリキシマブ、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メチルプレドニゾロンにて行い、術後3回の放射線照射を施行した。また腎移植時は、サイトメガロウイルス(CMV)およびEBウイルス(EBV)には未感染であった。
【経過】腎移植4ヶ月後に血清Crが0.2mg/dlから0.4mg/dlへ上昇し、移植腎生検を施行した。明らかな拒絶反応はなく、軽度の単核球浸潤を伴う尿細管萎縮と間質の線維化に加え、Tamm Horsfall蛋白(THP)沈着が目立った。尿の逆流を疑って実施したVCUGでは移植腎への膀胱尿管逆流現象(VUR)を高度に認め、また血液中のBKウイルス(BKV)DNA PCRが陽性であったため、抗生物質予防投与を開始しMMFを休薬し経過を見たが、腎移植7ヶ月で肝逸脱酵素の上昇を伴うCMV およびEBV感染症を呈した。
 腎移植1年後の移植腎生検では間質の線維化が進行し、尿細管は瀰漫性に萎縮を認め、遠位系を中心に核内封入体を確認した。血液BKV DNA PCRは陰性であったがSV40染色が陽性となったため、MMFは休薬のまま経過観察とした。
 移植1年半後の固有腎摘時(WT1遺伝子異常)にあわせて施行した移植腎生検では明らかなウイルス感染や拒絶反応の所見には乏しく、間質に瀰漫性に単核球浸潤、一部THPの逸脱も認め、尿路系の異常に伴う尿細管間質の変化と考えられた。現在、EBVは36800copies/μgDNAとEBV高負荷量持続状態であり、BKVについては検査中である。
【結語】幼小児腎移植例の尿細管間質病変は、移植後の早期あるいは遷延性のウイルス感染症や尿路系の問題を反映し、多様で複雑な組織像の検討と、細やかな対応が重要であると思われた。

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