腎移植後の急性抗体関連型および急性細胞性拒絶反応におけるtranscription factor c-Junの関与

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
* 小林 賛光、山本 泉
Vanderbilt University Medical Center 腎臓・高血圧科
高橋 孝宗
東京女子医科大学 腎センター
堀田 茂
東京慈恵会医科大学附属柏病院 病理
金綱 友木子、山口 裕
東京女子医科大学 外科
寺岡 慧
東京女子医科大学 泌尿器科
田邊 一成

【目的】c-Junは細胞増殖、分化、アポトーシスなどをコントロールする遺伝子を制御するいくつかのActivating protein‐1蛋白のうちの一つである。近年、多くの腎疾患においてc-Jun が糸球体や尿細管上皮で活性化していることが確認されている。しかしながら、腎移植後の急性拒絶反応におけるc-Junの関与は詳細にはわかっていない。今回、我々は腎移植後の急性抗体関連型拒絶反応(AMR)と急性T細胞性拒絶反応(ACR)でのc-Jun活性の有無およびその局在をしらべた。
【方法】対象はAMR15例、ACR15例、移植後1か月以内に拒絶反応をみとめず安定した腎機能をたもっている例10例(No rejection群:NR)の腎生検組織とコントロール群として6例の正常腎組織を用いた。c-Jun活性の確認に関しては、リン酸化c-Jun抗体による免疫染色を行った。
【結果】正常腎組織では糸球体では、podocyteとボウマン嚢上皮の核が陽性であった。糸球体内皮細胞もまばらに陽性細胞を認めた。尿細管では、ほぼすべての近位尿細管上皮細胞の核がわずかに陽性であり、遠位系および集合管では強陽性であった。傍尿細管毛細血管(PTC)の内皮細胞はまれに陽性であった。AMRでは、糸球体における陽性細胞数が有意に増加しており(P<0.01、AMR vs ACR、NR and control)、これらはBanff分類のg-scoreと強く相関した(rs=0.72、P<0.01)。PTCの腫大した内皮細胞は強陽性で、またいくつかのPTC内への浸潤した単核球も陽性であった。好中球は陰性であった。PTCの内皮細胞および浸潤細胞でc-Jun陽性細胞数はそれぞれ有意に増加していた(P<0.01、AMR vs ACR、NR and control)。しかしこれらはptc-scoreとは相関しなかった。尿細管に関しては、AMRでは虚血などの影響で扁平化した尿細管上皮が目立ちこれらの上皮細胞の核は強陽性であった。その陽性細胞数は有意に高かった(P<0.01、AMR vs NR、control)。ACRでは、間質へ浸潤した細胞に陽性であり、その陽性細胞数は有意に高く(P<0.01、ACR vs AMR、NR and control)、これらはi-scoreに強く相関した(rs=0.75、P<0.01)。尿細管炎をおこした尿細管では浸潤細胞と尿細管上皮の核の両者が強陽性を示した。尿細管における陽性細胞数は有意に高く(P<0.01、ACR vs NR and control)、t-scoreに相関した(rs=0.69、P<0.05)。AMR、ACR、NR群において、尿細管間質(ptcも含む)のc-Jun陽性細胞数は血清Crレベルと強く相関を認めた(rs=0.62、P <0.01)。
【結論】c-JunはAMR、ACR両者で様々な部位で活性化をみとめ、これらはACRにおいては尿細管炎や間質炎などの炎症細胞浸潤を中心に関与しており、AMRでは細胞浸潤だけでなく内皮細胞障害にも関与していると考えられた。以上から、c-Junはこれらの病理学的にみられた組織障害に関与している上に、臨床的にも腎機能低下との関連性が示唆され、腎移植後の急性拒絶反応に対する治療のターゲットとなりうる可能性が考えられた。


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