急性抗体関連型拒絶反応を発症した9例の臨床・病理学的検討

北海道大学病院 泌尿器科
* 下田 直彦、三浦 正義、福澤 信之、堀田 記世彦、田邊 起、
野々村 克也
北海道大学病院 病理部
久保田 佳奈子、羽賀 博典、松野 吉宏

【目的】腎移植後に急性抗体関連型拒絶反応(AAMR)を発症した症例の臨床病理像を検討する。
【対象】北海道大学病院泌尿器科で2003年以後に施行された血液型不適合腎移植(ABOi-Tx)や既存抗体陽性腎移植(XM-Tx)23例中、AAMRを発症した9例である。ABOi-Tx:4例、XM-Tx:5例、年齢は中央値49.6歳、男性4例・女性5例、XM-Txの1例が献腎移植であった。免疫抑制は全例でタクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ステロイド、バシリキマブを使用し、2例で脾臓摘出、7例でリツキシマブを投与した。術前に7例でplasmapheresisを施行した。病理所見はBanff 07分類にて検討した。抗HLA抗体はFlowPRA法で測定した。AAMR発生時期、臨床所見、抗体(抗血液型抗体、抗HLA抗体)価の変化、病理所見について検討した。
【結果】AAMRは8例で2週間以内、そのうち6例で1週間以内に発症した。全例で抗血液型もしくは抗HLA抗体価が上昇、腎機能が悪化し、ドップラーエコーにおいて末梢血管抵抗の上昇を認め、また、溶血性貧血、血小板減少、破砕赤血球の出現、ハプトグロビン低値、尿中FDP陽性などのthrombotic micro-angiopathy(TMA)の所見を認め、臨床的にAAMRと診断した。1週間以内に発症した6例中4例は出血のリスクが高いと考え、腎生検前に治療を先行した。病理所見上、ABOi-Txでは診断時に1例で糸球体炎(g1-2)、3例で傍尿細管毛細管(PTC)炎を認め、全例でPTCのC4d染色がdiffuseに陽性であった。XM-Txでは全例で糸球体炎(g1)、傍尿細管毛細管(PTC)炎を認め、3例でPTCのC4d染色が陽性であった。1週間以内で腎生検施行したXM-Tx の2例で炎症細胞浸潤が軽度で、PTCのC4d染色も陰性であり、病理学的にはAAMRの診断に至らず、臨床所見との乖離を認めた。治療は血漿交換とステロイドパルス療法に加え、症例によりIVIg、リツキシマブを使用し、全例でAAMRは寛解した。1例でCMV肺炎、2例でCMV viremia、1例でMRSA肺炎を発症した。難治性の感染症のため免疫抑制を中止した1例で再発したAAMRによりgraft lossした。
【結語】移植後ごく早期のAAMRは病理所見が少なく病理学的には診断に至らない場合があるが、臨床所見等からAAMR発症を迅速に診断し、適切な治療を行うことでAAMRは克服可能であった。

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