BKウイルス感染を呈した献腎移植の一例

九州大学大学院 臨床・腫瘍外科
* 杉谷  篤、本山 健太郎、山元 啓文、井上 重隆、岡部 安博
大田 守仁、吉田 淳一、田中 雅夫
同 腎疾患治療部
升谷 耕介、平方 秀樹
原三信病院 呉服町診療所
片淵 律子

 臨床的に拒絶とウイルス感染の鑑別が困難であった献腎移植例を経験した。症例は48才男性。現疾患は慢性糸球体腎炎で、間質性肺炎で死亡した66歳ドナーから献腎移植を受けた。7日目にCMVアンチゲネミア陽性となったため、免疫抑制はBasiliximab, CyA, steroidの3剤で継続した。術後7回の血液透析を必要とし、血清Crの低下は緩徐であった。0hr, 1hr生検はATN、術後8日目プロトコール生検は急性拒絶GradeIa、36,56,81日目生検は尿細管間質の非特異的障害という所見であった。免疫抑制の増量にもかかわらず、翌日Crが上昇したため尿細胞診を施行したところ、多数のdecoy cellを認めた。いずれの生検像でもBKウイルスの間質障害はなかったが、血中、尿中BK virus PCRも陽性であったため、BK virus nephropathyと診断した。直ちにMMFを中止、Tac troughを5ng/ml以下としγglobuline5g/dayを9日間投与した。その後、Crは徐々に低下傾向を認め尿中decoy cellも減少したが、115日目生検にて拒絶函反応GradeIbを認めたため、steroid pulse、TacとMMFを軽度増量した。その結果、尿中decoy cellは陰性化し、微熱も軽快した。血清Crは2.0mg/dlとなったため軽快退院し、現在1.3mg/dlで良好な腎機能を維持している。臨床経過と病理組織所見との間に乖離があって、治療に難渋した症例であった。

戻 る  ページの先頭